アクティビティ

【IoB対談】「非侵襲BMI」越える境界、描く自由の輪郭

2026年03月25日
  • インタビュー
  • IoBミドルウェア

医療・神経科学 笹井 俊太朗 株式会社アラヤ CRO兼研究開発部長
非侵襲BMIを使った言葉の解読を担当。影響を受けたSF作品は「マトリックス」

エンターテインメント 阿久津 完 株式会社アラヤ 研究開発部 マルチセンス・ファンデーション・チーム チームリーダー
BMIの共通プラットフォーム構築を担当。影響を受けたSF作品は「ソードアート・オンライン」

ロボティクス Arulkumaran Kai 株式会社アラヤ 研究開発部 強化学習チーム 訪問研究員(元 チームリーダー)
BMIで動く支援ロボットの開発を担当。影響を受けたSF作品は「攻殻機動隊」

聞き手 モチョン(川原) 瞳 株式会社アラヤ サイエンスコミュニケーター

<対談場所 東京・秋葉原某スタジオ>

 

川原

 

本日はムーンショット目標1 金井プロジェクト Internet of Brains(IoB)で非侵襲型BMIの研究をされている3人のゲストをお迎えしています。まず、BMIとは何を指す言葉か教えてください。

阿久津
   

BMIは「Brain Machine Interface」の略で、文字通り脳と機械をつなぐインターフェースです。利用方法には、脳から信号をアウトプットしてロボットを操作する、あるいは脳に何かをインプットして変化を起こすといった双方向の使い方があり、可能性を秘めた技術です。

 

川原

先生方が研究されている非侵襲型BMIについて、メリットとデメリットを教えてください。

笹井

非侵襲型は侵襲型と違い外科的な手術を伴わないため、身体的、心理的なハードルが下がり、利用障壁が下がることが一番のメリットです。しかし、デメリットは、侵襲型と比べて信号の質が圧倒的に悪いことです。神経から遠い、生体の外から活動を計測するため、間に信号を阻害する組織があることで、信号が劣化してしまうのです。

<strong><span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">データの「量」で越える、侵襲と非侵襲の境界線</span></strong>

川原

信号の質の悪さを克服するために、笹井さんのチームではどのようなアプローチをとっていますか?

笹井

非侵襲の脳波計では高度な言葉の解読はできないと言われてきましたが、我々はデータ量をたくさん貯めることによってこの課題を解決できないかというテーマに取り組み、実際に貯めれば貯めるほど解読の精度が上がることを明らかにしました。データさえ貯めれば、侵襲的な計測を行わなくてすむ可能性を拓いたという点において、巧妙な研究だと思っています。

 

笹井

ただ、患者さんが使用する度に毎回大量のデータを貯めるのは大変です。そこで我々は一旦健常者で貯めておけば、これを必要としている別の人にも転用できることを示しました。つまり、個別の患者さんで使用する際には少しのデータを取るだけで、高い精度の解読が可能になるのです。

川原

具体的にはどのような場面で役立ちますか?

笹井

インコンプリート・ロックドイン・シンドローム(閉じ込め症候群)という、ほぼ完全に身体が動かない患者さんのデータを少し取らせていただくだけで、その方の言葉を解読できることを示しました。

川原

脳波を取る位置が少しズレただけで信号波形が変わってしまうと伺ったのですが、その辺りもデータの量でカバーできたのですか?

笹井

位置に関係なく大量に取っていくことで、位置の問題も精度の問題も一気に解決したことが今回のアプローチの利点です。

<strong><span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">技術の融合で拓く、誰もが自在に操れる世界</span></strong>

川原

阿久津さんのチームでは、IoB全体の技術を集約するためのBMI-CAプラットフォームを構築していますが、CA(サイバネティック・アバター)とは何ですか?

 

阿久津

物理的なロボットやバーチャル上のアバターなど、人がコントロールできるものは全てCAと呼んでいます。

川原

プラットフォームを作った動機は何でしょうか?

阿久津

現在、プロジェクト全体では先端技術の成果が個別に現れ始めています。こうした技術を点在させたままではなく、統合的に活用できる場を構築したいという課題感がまずありました。さらに、脳波単独では実現が難しい自由度の高い操作も、筋電など他の生体情報と組み合わせることで可能になるのではないかという仮説があり、そうした新たなイノベーションの創出も期待しています。

 

筋肉から得られた電気信号(上)と
その信号を使って操作するロボット(下)

川原

IoBの開発者だけでなく、一般ユーザーも使えることを目指しているそうですね。

阿久津

どんな人でも使えるようにしたいというのがプロジェクトの想いです。小学生でも初見で扱えるようなインターフェースのあるプラットフォーム上でロジックを組むことで、ゲームのキャラクターやロボットを思い通り操作できるように開発を進めています。

川原

最近、阿久津チームはUAEのドバイ未来財団(DFF)とコラボレーションしていますが、その意義は何でしょうか?

阿久津

ドバイにはいろんな国の方がいて、多言語で、技術の受け入れも積極的で、実証実験もやりやすいという稀有な場所です。一般の方に今作っている技術を知ってもらったり体験してもらったりできる機会をつくっています。

川原

実証実験の場を持てるというのは研究にとって重要なのですね。

笹井

我々はBMIという“インターフェース”を作っているので、実際に使ってもらいフィードバックを得られる場は非常に大事だと考えています。

 

<strong><span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">BMI ✕ ロボティクスで実現する社会参加の自由</span></strong>

川原

カイさんの「アシストキッチン環境」プロジェクトは、どのような支援を目指していますか?

カイ

このプロジェクトでは、家の中のキッチンを舞台にテーブルや椅子、戸棚、コップ、食べ物、人などをシミュレーション上に配置しています。その中で、身体に障害のある人も脳波や視線を使用して、「対象となる物体を見て」「やりたいことを考える」だけで支援ロボットを操作できます。「食事を作る」「食事を運ぶ」などの特定の作業だけではなく、将来的には日常生活のさまざまな作業をすべてこなせるシステムを目指しています。

 

「アシストキッチン環境」の実験シーン

川原

一人一台ではなく、一台のロボットを複数のユーザーで同時に動かす「マルチユーザーシステム」を採用している理由は何でしょうか?

カイ

この研究を通して分かったのは、人々は単に支援を求めているわけではないということです。日常生活のサポートに加え、社会の一員としてありたいという想いがあり、友人や家族とコミュニケーションを取りたい、さらには社会に貢献したいという思いを持っています。

 

カイ

私たちは人の脳とロボットの間のコミュニケーションを研究していますが、実際にはBMIを活用して「人と人との間のコミュニケーション」をサポートするのがゴールなのです。

<span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">BMIで</span><span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">越えるさまざまな境界</span>

川原

BMIが広く使われるようになったとき、どのような社会になっていってほしいか、一言で表してください。

カイ

私が影響を受けたSF作品である攻殻機動隊の世界のように、この技術が普及することで「フリーダム」(自由)が実現されればと考えています。例えば、かつて眼鏡の登場によって、視力の悪い人でも視力の良い人と同程度に物を見ることができるようになったのと同じように、将来のBMI技術によって、誰もが従来の人間の限界を超えて自分の能力を拡張できるようになるでしょう。

阿久津

ゲームが好きな私は「物理とバーチャルの境が無くなる」と書きました。物理空間と仮想空間の区別がなくなり、人の体型や年齢、性別などによる違いにとらわれなくなると、どこにいても自分らしさを発揮できる環境が生まれるのではないかと思っています。

笹井

私は「人生追体験」という言葉で表現しました。脳波からその時何を思ったかを自動的に記録していくと「人生のアルバム」みたいなものができます。これを他人とシェアすることで、従来のように写真や短文だけの表層的な情報共有ではなく、心の声や感情までも共有できるようになり、より豊かな人生を送ることができるのではないでしょうか。

 

<strong><span style="font-size: 15pt; line-height: 23px; font-family: 'Yu Gothic', sans-serif;">倫理的境界線と選択の自由</span></strong>

川原

記憶や感情の追体験ができるようになると、「知られたくない情報を知られてしまうのではないか」という懸念があります。この点をどう考えていますか?

笹井

知られたくない情報への恐怖感はありますが、共有のコントロールさえできればいいのではないかと思います。Facebookの「友達にならなければ共有されない」システムのように、BMIのインフラに共有コントロール機能を設置することで、自分の境界線を保ちつつ、濃密な共有を実現することが狙い目です。

阿久津

新しい技術は、エンターテインメントのようなすごく楽しいことをやる、ライトな形の体験からスタートするのがいいかなと思っています。そうすれば最初のハードルが下がり、本当に自由に選択をして、良いと思ったらどんどん使っていく。無理に取り入れる必要はないという形で徐々に浸透していくと、抵抗も少なくなってくると思っています。

カイ

日本のSF作品は、私たちが「こんな未来を見てみたい」と思える世界を描いてきました。だからこそ私たちも新しい技術を提案することで、次世代に「努力したら未来は拓ける」と思ってもらえるよう、刺激し続ける責任があると思います。

笹井

我々非侵襲BMIチームは、このようにプラットフォームを作り、データを集め、アプリケーションを含めて、包括的に社会実装を狙って研究を進めています。また、「Neu World」という取り組みを通じて、倫理的な側面にも配慮しながら、誰も取り残さない形で研究を進めていこうと考えています。

 

 

IoB研究者が語る、非侵襲型BMIが拡張する「自由」の新たな解像度。さらなる応用先や、共通プラットフォームを活用した協働ビジョンなど、彼らが描く壮大な未来図の全貌は、ぜひ動画本編にてご確認ください。

(動画リンク)IoB 非侵襲BMI 開発者対談

執筆・動画編集 株式会社スペースタイム