アクティビティ

ゲームを脳波でプレーする
ヘッドフォン型脳波計とAI実現する「自分の意思で動かしている感覚」

2024年07月23日
  • インタビュー
  • IoB インターフェース

神経科学が専門の牛場潤一さん(慶應義塾大学理工学部・教授)は、ヒトの脳がどう機能しているのか、経験を経てどのように機能が変わっていくのかという可塑性の研究をしています。このインタビューでは、IoBにおいて担当しているウェアラブル・センサーを使った脳波の計測に関する研究について、お話を聞きました。

<span style="font-weight: 400;">ウェアラブル・センサーで</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">アバターを動かす</span>

私がIoBのプロジェクトで担当しているのは、ウェアラブル・センサーを使って手術をせずに人の脳の活動を読み出し、そのデータをリアルタイムでAIで分析することによってアバターを動かしたり、ロボットを動かしたりするような、ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の研究です。

私たちが新たに開発した脳波センサーは、見た目はヘッドホンのようですが、内側に脳波センサーが付いていて、イヤーカップの中にそれを増幅するアンプが入っています。Bluetoothでそのデータを送信して、被っている人の脳の状態をリアルタイムにPCの中で分析することができます。

<span style="font-weight: 400;">介護の経験が</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">研究のきっかけに</span>

私が高校生の時、祖父が脳卒中になりました。言葉がしゃべれなくなり、自分1人では移動できなくなったのです。本人の頭の中では病気になる前と変わらず、さまざまなことを考えたり、家族と話したいという気持ちは湧いてくるのに、言葉にならない、歩いて行けない。私は、もどかしさを目の前にして複雑な気持ちになりました。

もし、そういう想いを外に伝える技術や、自分の想いで移動できる手段があったら、本人も家族ももう少し違った毎日を豊かに過ごせたのではないか。そういう原体験があったことから、BMIの研究に従事することになりました。

<span style="font-weight: 400;">スタイリッシュで</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">普段づかいできる脳波計を</span>

まず、私たちが注力して取り組んできたのが、ヘッドホン型の脳波計の開発です。医療機器を作るノウハウを生かして、日常的に脳波を計測できるようなデバイスとして作りました。良い意味で普段の生活に馴染むような、その辺の家電屋さんで売っていても、普通のヘッドフォンだと勘違いするようなスタイリッシュなデザインです。また、髪の毛があってもきれいな品質で脳波が取れるように、電極の形や材料も工夫しています。

もう1つの成果は、さまざまなノイズが入る環境で利用しても品質の良い脳波を計測できるように、AIを使って計測した脳波の信号からノイズを除去するミドルウェアを開発したことです。脳波はわずかな電位の変化なので、頭が少し動くだけでもノイズが入ったり、顔の筋肉から出る信号が混ざったりすることがあります。さまざまな理由で、突然予期せずノイズが混ざってしまうことが脳波の計測の難しいところです。その信号の品質をきれいにする技術をミドルウェアとして開発しているところが、我々のチームのオリジナリティです。

<span style="font-weight: 400;">「フォートナイト」を</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">脳波でプレイする</span>

実証実験の1つとして、世界で大人気のゲーム「Fortnite」を使って、そのメタバースの中にサーキットを設計、自分のアバターを自分の脳波で操作して、いかにアバターを速くゴールできるかというタイム・トライアル・チャレンジができるような環境を整備しました。

そして、この環境を利用して、自分のアバターの操作スキルを楽しく競い合える「ブレインピック」というイベントを実施しました。これには、脳性麻痺やALSなどさまざまな理由で体が不自由な人たち中高生たちに参加してもらいました。

ブレインピックでやっていたのは、前に進みたいか止まりたいかのオン・オフの信号を脳波から読み出してアバターの動きに反映するということです。でも、これだけだと前に進むか止まるかしかできないので、頭の傾きをセンサーで捉えて、それを方向転換に対応づけました。

<span style="font-weight: 400;">脳波とAIが実現する</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">気持ちで動かしている感</span>

ほとんどAIがやっているように見えるのですが、実際に使ってみると僕が僕の気持ちで動かしているという感覚がすごく強いのです。このギャップを発見できたのがこの研究の面白いところです。これは極端な言い方をすると、AIが9割9分やってくれても、少しでも自分の気持ちが反映されると、「僕がこれを動かした」という自分の効力感があるのです。

それはある種の希望で、重度な身体の障害がある方でもフルにAI技術を使って、会話できたり移動できたりすれば、依然として自尊心を維持したまま、生活や社会に繋がっていけるという気づきにもなりました。

<span style="font-weight: 400;">想い伝えることで</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">豊かな生活を</span>

2050年に私たちがどういう社会を実現したいだろうかと考えると、誰もが毎日を楽しく豊かに暮らせていたらと思うのです。それはどういうことかなと考えると、自分が大切だと思う人と一緒に暮らしたい、心を通わせたいということだと思います。

ですから、自分の想いを伝えられる相手は人であっても、デバイスであっても、コミュニケーションをとれる状態を作ることが、豊かな優しい幸せのある2050年を作ることだと思っています。

<span style="font-weight: 400;">ワクワクが満ちあふれる</span><span style="font-weight: 400;">
</span><span style="font-weight: 400;">サイエンスを楽しもう!</span>

若い子たちに伝えたいのは、サイエンスにはワンダー、わくわくが満ちあふれているということです。魔法のような夢を可能にするツールだと思います。単純に実用的なものを作れるということだけではなく、世の中を見る心のレンズが豊かになる。そういうところがサイエンスの良いところなので、ぜひサイエンスを楽しんでほしいと思いますね。

取材・執筆・動画編集 株式会社スペースタイム